12月20日

推しとか占いとか誰にも言えない心内とか

ホラーファンタジー

特にプログに書くネタもないから、短いホラーファンタジーのようなホラーオカルトのような短い小説でもかこうかな。

 

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>若桜Drシリーズ


瞳を見た瞬間、あぁ、と腑に落ちた。

夫婦仲良くしている様子だけど、奥さんの体調がずっとよくならないのは、夫の問題だ。

 


体調が悪く、どこの医者に行っても原因不明。おそらく心の問題だろうという診断結果を彼らがしぶしぶ納得したのはもう片手では数え切れないほどの病院にかかった後だった。

ヤブ医者どもめと心の中では思っていたかもしれない。実際にそういう目をしていた。

 


彼らの診察に対する対応は誠実で、先生である私の話をよく聞き、質問もする。

しかしそれも聞いているだけのフリなのだ。彼、もしくは彼らは治すつもりがないから。

 


奥さんが体を起こすのもやっとのことだという申し出で、診察室の隣のベッドに横になってもらった。その時も献身的に付き添う夫がとても印象的で、そこに愛があるのだと思っていた。

 


だが、実際にはどうだろう。

 


瞳を見た瞬間、思わず警戒してしまう、瞳をじっと見つめ返してしまう。

 


奥さんが落ち着いたところで診察を開始したところ、殆ど話すのは夫。

確かに口を開き言葉を話すことも億劫な患者だっている。現に彼女は気分が優れなくて横になっていたのだから。

それを差し引いたとしても、彼女がちっとも喋らないのは不自然だった。

 


奥さんの代わりに私に一生懸命症状を話す旦那さんは、私にとったら奥さんのことはどうでもいいのだと感じられた。

設備や待ち時間、これまでかかった病院全ての悪態を吐く。きっと、私でなければその意図に気づかなかった。

私以外は愛する妻を心配するあまりいい治療を!と懇願する夫婦の鏡のように見えただろう。

近くにいた看護師が夫婦愛に感嘆の息を漏らしていた。

 


診察を無事に終えたあと、濃いめのコーヒーを飲みながら思う。

夫が自省し、妻のことを真に考えるのであれば、妻の状態は良くなるだろう。しかし、それも無理な話である。

彼らは学生じゃない。もう大人なのだ。今まで培ってきた価値観を変えるようなことはもうない。

 


夫は妻が日々弱るのを悲しむだろう。でもそれが本当に悲しいのかはわからない。だってそれは彼が無意識のうちに望んでしまっているのだから。

 


どれだけ医術が発達しようとも、そういった病を引き寄せるのは所詮人の業なのだ、と書きかけのカルテを見てため息をついた。